「住民一人ひとりを健康にする」というスローガンを掲げる自治体は多くあります。
しかし、どのような段階でどの程度「健康にするのか」まであまり議論されることはありません。
今回は「公衆衛生(パブリックヘルス)」的な観点から社会全体を健康にするための基本的な考え方をみていきます。
*公衆衛生とは(デジタル大辞泉)
地域社会の人々の健康の保持・増進をはかり、疾病を予防するため、公私の保健機関や諸組織によって行われる衛生活動。母子保健・学校保健・老人保健・環境衛生・生活習慣病対策・感染症予防など。
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公衆衛生的にどのように判断すべきか?
公衆衛生では、川の上流から下流までを考えた時に、どこにいる人たちにどの程度働きかけをしたら、社会全体が健康になるかを考えます。
例えば、川全体に1000人に人たちがいるとします。
使えるお金が100万円あった時に、川の下流にいる、脳卒中一歩手前のかなり血圧の高い100人に集中的に高血圧の薬を渡すのか。
それとも川の上流・下流にいる1000人全員が運動しやすいような環境を整えて運動不足を予防し、上流のリスクを減らすのか。
使える資源に限りがある時に、どちらをしたら良いのかを決める必要があります。
先ほどのたとえでは、わかりやすく川には1000人の人がいると仮定しましたが、実際はひとつの町や市、自治体、ひいては日本全体と考えると、何百・何百万・時に1億人以上の今後の健康に行方がかかっています。
そう考えると、直感でどちらにするのかを決めるなど、恐ろしく無責任な事はできなくなります。
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病気は徐々になるものであって「今日」からなるものではない
アメリカではBMI30以上の人が肥満です。
こういう指標を出すと、BMI29.9の人は区切り上は「肥満ではない」ことになります。
しかし、実際、BMI30の人とBMI29.9の人の心臓病のリスクは大きく変わるものではありません。
白黒はっきりさせる代わりに、全体のリスクの中で自分がどの辺りの位置にいるか(曲線のどこにいるか)を確認し、それを低い位置になるように働けましょうというのが公衆衛生の考え方です。
大多数の「中リスク」の人たちに多く患者が潜んでいる
社会という視点を持った時に大切なのは、実際に病気になっている人がどこからやってくるのかという視点です。
つまり、どの層に資源を投下したら、病気になる人の数を最小限に抑えることができるのかを考える必要があります。
高リスク群の人数が減ったとしても、発症率や死亡率といった、社会全体の健康度を測る指標においては、効果が表れにくいのです。
一方、リスクとしては低・中程度だったとしても、人数が多い場合、彼らが病気になった時の社会的インパクトはとても大きくなります。
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おわりに
このように社会がとり健康になるための社会疫学アプローチ、上流に対する公衆衛生的なアプローチをそれぞれの地域で応用、実践していく必要があります。
参考資料
イチロー・カワチ:命の格差は止められるのか
記事提供
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